2001

岸本忠三総長から、揮毫いただく

「一流を知る」

第一回銀輪賞(昨年度掲載原稿が受賞対象)

銀輪賞
『日本縦断記』 植村知之著(再掲)
ノミネート作品
『SOSOU考』 市村大治郎著、『China girl』 瀬井裕子著

 


銀輪賞創設にあたって

言葉は手段であると同時に目的そのものです。言葉は自分の外にある物事を約束にしたがって意味する客観的な記号であると同時に、自分のうちにある心の動きを無意識的に反射する生き物であります。ですから、書き手が自分の思いを正直に語ることが言葉における魅力を作り出すといえましょう。

一方、皆さんが「銀輪」を呼んで感動するのは、その言葉自体に心震わされるだけではありません。それはむしろ、その作品に裏打ちされた、その著者の行動に価値を見いだすからです。胸を打つような行動を前にすると、私たちは言葉があたかも無力で空しいものに感じることもあります。このような点では、行動はそれ自体が無条件の説得力をもつのです。

しかし、「言葉は行動の影である」との言葉のように、その人柄がにじみ出ているような「体温ある」文章が私たちの心を打つのは、行動が私たちを捕らえて放さない魅力を言葉で表現することに、その著者が成功しているからです。銀輪を読んでいるだけで、おのづとその著者の動作や表情が目に浮かんでくるのは、著者が自分の経験で得たものを、素直に伝えようとする熱意が私たちに届くからです。

ただ、行動を自分の言葉に換えて表現するのは、決して楽ではありません。経験という大きな塊を一つ一つ丁寧にほぐして、もう一度組み立てていかなければならないからです。さらに、読み手に自分の思いが伝わるようにするには、より一層の工夫が必要となります。

私たちは、その労力や手間を惜しまずに、あえて自分の行動を自分の言葉で表現しようとしたその姿勢を評価したいと思います。単なる事実の羅列ではなく、文章に自分の思いを潜め、勇気を持って自分を告白することを選んだ情熱をかいたいと思います。

そこで、大阪大学サイクリング部編集は、21世紀、サイクリング部35周年にむけて銀輪に新たな意味を付け加えるべく、クラブ活動を中心に独自の視点で自身の心状を言葉で描いた秀逸な作品を「銀輪賞」として選び、毎年一回表彰することをここに宣言します。

わたしたちは、この賞が、現実を自らの眼で見つめ、自らの体で感じようとする逞しい部員たちの活力となることを心より欲しています。

2000年12月

大阪大学サイクリング部編集